Clubhouse 流行の背景とUXを分析
音声SNSのClubhouse、みなさん使っていますか?
ユーザー数が一気に増えている一方で「何がすごいか分からない」「面白さが分からなかった」という声もよく聞こえてきます。
この記事ではClubhouseをUXデザイナー観点で分析し、流行っている理由やUXの優れているところなどを考えていきます。
流行の背景
リリースタイミング
いきなりUXやデザインの観点からは外れますが、Clubhouseは公開のタイミングが非常によかったと思います。
コロナ禍が1年以上続くなか、人々の中で閉塞感が強まり「誰かと話したい」「友達と雑談したい」という気持ちが高まっていた時期に非常にマッチしました。
またユーザーの多くがZoomやTeamsに慣れ、web会議のリテラシーが高まっていたことも、ユーザー体験を高めています。
いろいろなルームを覗いてみましたが、一般のユーザーでも上手に会話やファシリテーションをこなしており、発言被りが驚くほど少ないことが印象的でした。
耳の可処分時間
ユーザーの可処分時間の奪い合いが激化している一方、耳(音声)についてはまだ空きがあるため、この領域のサービスの増加は以前から予想されていました。
それでも、Podcastやオーディオブックなどの既存サービスを使っているユーザーは限定的だったように思います。
そこに一石を投じたのがClubhouseです。
Clubhouseでは、耳の可処分時間を持て余していたユーザーが、ダラ見ならぬダラ聞きをして長時間サービスを使っています。
バックグラウンドで会話を聞きながら別のアプリを操作する使い方もできるため、通常の可処分時間を奪わず、アドオンで楽しみや学びを得ることできます。
バックグラウンドで会話を聞きながら別のアプリを操作する使い方もできるため、通常の可処分時間を奪わず、アドオンで楽しみや学びを得ることできます。
UXが優れているところ
ここからはUXの観点で優れているところを紹介していきます。
紹介するのは以下の4点、「招待制」「自由度」「ハードル」「ライブ感」です。
UX:招待制
Clubhouseはすでにアカウントを持っている人から招待されないと使えないサービスですが、招待制はUX観点でどんなメリットがあるのでしょうか?
招待制のメリットの一つ目はサービス開始直後のUXが良好になりやすい点です。
SNSを始めた直後は「誰とも繋がっていないからコンテンツが何も提示されない」「何をしていいか分からない」といった状況に陥りがちです。
しかし、招待制であれば、「とりあえず招待してくれた人と話してみるか」「使い方教えてもらおうか」などの行動をとりやすくなります。
しかし、招待制であれば、「とりあえず招待してくれた人と話してみるか」「使い方教えてもらおうか」などの行動をとりやすくなります。
それによってサービス開始直後のユーザー体験がよくなり、離脱ユーザーの削減にも役立ちます。
招待制のメリットの二つ目は荒らしユーザーと出会う確率を抑えられるという点です。
本来Clubhouseのような音声ベースのSNSは、テキストベースのSNSに比べ、荒らしユーザーに対して脆弱だと考えられています。
なぜなら、テキストであれば、汚い言葉や差別用語などを検知して投稿を制限をすることが可能です。
また、パトロールもしやすいため、人の目で内容を確認し問題のある投稿を個別に判断することも可能でしょう。
また、パトロールもしやすいため、人の目で内容を確認し問題のある投稿を個別に判断することも可能でしょう。
しかし、問題のある音声を検知することは、テキストに比べると難しいですし、自動文字起こしの精緻化にももう少し時間がかかるのではないかと思います。
そこで、捨てアカウントでは参加しづらい招待制にしておけば、ある程度ユーザーの質を担保できます。結果として、不快なユーザー体験が減り、全体でのUXの質を高めることにつながります。
最後の三つ目は事業者目線ですが、サービスへのロイヤルティーや継続率を高めてくれる心理的効果が発生するという点です。
誰かから招待されると以下のような心理的効果が期待できます。
- 招待されないと参加できないものは価値が高いに違いない(希少性の原理)
- 招待された以上、ある程度使わないと招待してくれた人に悪い
- 他の人を招待した以上、すぐに使うのをやめると気まずい
招待制にするというUX設計がユーザーの深層心理に働き、ロイヤルティー向上や継続率向上に寄与していると考えられます。
UX:自由度の高さ
Clubhouseは使い方が非常に自由です。
意図的かどうかはわかりませんがアプリ側から使い方を提案するような仕掛けがほとんどないのです。
意図的かどうかはわかりませんがアプリ側から使い方を提案するような仕掛けがほとんどないのです。
そのためか、ざっとみた限りでも、以下のような様々な使い方が見られます。
- 身近な友人との雑談
- 最近会っていない友達と同窓会的な使い方
- テーマを絞って不特定多数で議論
- ラジオ代わりに聞きながら無言で作業
- 同じ業界や職種の人とつながる
- セミナー
- 告知
- コンサルティング
- 輪読
- テレビのオンエアを見ながらの解説
などなど...
このオープンワールド的な自由度のおかげで、ユーザーそれぞれが自分にあった使い方、自分が楽しめる使い方を見つけて使い続けることができます。
UX:ハードルの低さ
発信側も聞き手も、参加のハードルが低いのがClubhouseの特徴です。
発信側のハードルが低い理由
- カメラやマイクなどの機材が不要
- 発信する画像や動画の編集技術、アップロードなどの知識も不要
- 事前に話す内容を固めなくても、参加者と対話がコンテンツになる
- 会話内容が残らないため、気軽に発信出来る
- 聞き手からのリアクション手段が少なく、予期せぬリプライなどが来ない
聞き手のハードルが低い理由
- 誰がルームに参加しているか事前になんとなくわかるため場違いになる不安がない
- 他の参加者に通知されることなくルームを退出できる
特に、「Leave quietely」と書かれた、部屋を出る際のボタンには、退出しづらいストレスを軽減する工夫を感じます。
ポジティブな絵文字も付いているため、「気軽にやっていいアクションなんだな」と感じやすいデザインと言えるでしょう。
ポジティブな絵文字も付いているため、「気軽にやっていいアクションなんだな」と感じやすいデザインと言えるでしょう。
こういった細かい気遣いが、ルームに参加する心理的なハードルを下げているため、ユーザーは、興味のままに渡り歩いて、自分が心から楽しめるルームを見つけやすくなっています。
UX:ライブ感(その場限りの特別感)
最後に、Clubhouseのユーザー体験として非常に特徴的だと感じたのは、ライブイベントのスケジュールのように、今後の予定がタイムライン的に表示される部分です。
本来であれば、Netflixなどのようにユーザーが好きなタイミングで見られるオンデマンド型の方が、当然利便性が高いのですが、配信されるタイミングでしか見られないということはユーザーのワクワク感や、見逃したくないというモチベーションを高めて、エンゲージメントを高める効果が期待できます。
Clubhouseの今後の懸念
爆発的なヒットをしているClubhouseですが、その先行きは本当に明るいのでしょうか?
筆者はいくつかの観点で懸念があると思っています。
コンテンツの質が玉石混淆 かつ 平均点としては低い
最大の懸念はコンテンツの質です。
多くの部屋での会話を聞きましたが、それぞれの面白さには本当にバラツキがあります。
- 「タダでこんな話が聞けるなんてすごい!」
- 「この人たちが議論するとこういう化学反応が起きるのか」
と思えるような部屋も多くある一方で、
- 「どこかで聞いたような話ばっかりだな」
- 「本来のテーマと関係ない雑談が多いな」
とガッカリしてしまうような部屋も少なくありません。
また仕方のないことですが、即興的に作り上げられるコンテンツのため、その質は時間をかけて練られたものに比べて見劣り(聞き劣り?)します。
事前準備や録音後の編集を経たPodcastや、じっくりと書かれた書籍を読み上げるオーディオブックの方が、質の平均点は断然高いです。
耳の可処分時間が多く残っているうちはコンテンツの質があまり問題にならないかもしれませんが、今後似たようなサービスが増えてくるにつれて大きな課題になってくるのではないでしょうか。
コンテンツが蓄積されない
コンテンツに関するもう一つの懸念は、コンテンツが蓄積されないことです。
成功しているサービスの多くは、長期間コンテンツが増え続けることで
- そこにいけばコンテンツがたくさんある
- Googleで検索すると自然にそのサービスに行き着く
というような体験を作り上げています。
YouTubeやNoteなどはこの戦略を取ることで競合との間に圧倒的な差を作り、自社サービスに追いつけないようにしています。
一方Clubhouseはコンテンツが蓄積されないサービス設計になっています(裏側では残っているかもしれませんが、少なくとも現時点ではユーザー側からはアクセスできません)。
そうなると、他社にとっては参入障壁が低くなり、Clubhouseを改良したような競合サービスが現れた時には一気にユーザーを奪われてしまう可能性があります。
最後に
以上、Clubhouseの流行の背景とUXで優れていると感じたところ、そして今後の懸念について紹介してきました。
面白いサービスだとは思いますが、世間でのClubhouseの評価もマチマチですし、今後も流行り続けるかは不明です。
とはいえ、これだけ流行っているものには、その背景や優れているところがあるはずなので、それを学びつつ楽しんでいけると良いですね。